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横を向くと、いつも
すぐ隣にあった「温かさ」。

それがまるで、
ガラス越しに感じられた
あの頃。

いつもの笑顔は
変わらずそこにあるのに

いつものように
手を伸ばすと
ヒヤッと冷たい感覚。

今まで暑苦しさなんか
感じたことなんてなかったけど、

男友達に
弱みを見せるようで嫌だった。


だから、
暑苦しい振りをすることにしたんだ。


　「毛利さん・・・」


すると、
日の当たらない廊下はやけに肌寒くて、
昇降口を出ると
日差しが刺すように痛い。

大好きなサッカーをしていても、
何だか体が重い・・・

だから、
外で遊ぶのはやめて
父さんの書斎で本を読み明かした。

本に向かっていると
胸のイライラと向き合わなくてすむ。




そんな違和感を
心の隅に押し込んで
がむしゃらに駆け抜けたあの日。

俺とアイツを夕日が照らした。


格子に肘を突いて
茜色を眺めていると
今まで理屈っぽくなっていた
俺の頭も胸の中も
解き放たれていくようで・・・。


「蘭・・・、あっ、悪い。
　毛利さ・・・」

「ら、
　蘭でいい！
　蘭のままがいい！！」


その瞬間、
氷のような冷たいガラスが

心地よい高音を奏でながら
星屑のように弱い光を輝かせて
舞い落ちていく。

見ていたはずの茜色が
向こうから迫ってきて―

頭の中の・・・
思考の奥底まで
温かい光が伸びていった。


すると、
風に揺られて響いていた
若葉の囁きは遠のき、

音のない世界で

夕日に照らされて
頬を赤く染めた蘭の大きな瞳だけが
俺を見つめているような気がした。

「オメーが別にいいなら
　それでいいけどよ・・・」

「ホントー♪
　やったー！！」

蘭の両腕が
俺の両耳をふさいだ。

その瞬間、
頬にガラスの冷たさが伝わるのではと怖くなり、
思わず体をこわばらせた。

しかし、俺の頬を伝わってきたのは
冷たさではなく・・・


俺は
蘭の腕の中でそっと
瞳を閉じてみる。

柔らかい新緑が
重なり合う音と、

水平線の向こうからやってきた
夕闇の冷たい風が

蘭や俺の
肩やひざを撫でて

「明日」がやってくる水平線へと
吹き抜けていく。

すると―
走り回った体のだるさが
じんわりと俺の体を襲った。

ひざから力が抜ける。

体からこわばりが消えた―

ただ感じるのは、
頬に伝わる心地よい温かさだけ

ほんの一瞬、
眠ってしまいそうになった・・・


よろめく自分を意識したとき、
胸の奥から
カッと熱いものがこみ上げてきた。

酸素が足りないような感じがして
思わず深呼吸をした。


今まで感じなかった
胸の高鳴り。


自分自身の頬が
赤く染まっているのを
蘭に見られるのが恥ずかしくて

格子のはるか向こうに浮かぶ
輝く太陽とにらめっこ。


俺の心に居座っていた
初夏の太陽が
ようやく長い一日を終えて
沈んでいくのを感じた。

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