2008/12/24 00:51:01
作文作業、
現在進行形。
未完。
(12月28日【日】、追記。)
クリスマス作文が、約9割出来上がりました(^-^)
登場人物が極端に少ない(笑)。
とんだ、妄想文です(^-^;)<恥ずかしぃ。>
“私”なる人物が登場しますが、
それに「青子」や「蘭」を当てはめてみるとどうでしょうと
アドバイスいただきました♪(by Qきちさん♪)
なるほどっ! それは楽しい(#^-^#)
しかし、ろくに考えなしで進めてきちゃったので、
言い回しや話の展開で
チグハグしてしまっているところも多々あることと・・・。
まぁ、結局は僕の独り言・・・。
ただし、無駄に長いので、要注意です(笑)。
現在進行形。
未完。
(12月28日【日】、追記。)
クリスマス作文が、約9割出来上がりました(^-^)
登場人物が極端に少ない(笑)。
とんだ、妄想文です(^-^;)<恥ずかしぃ。>
“私”なる人物が登場しますが、
それに「青子」や「蘭」を当てはめてみるとどうでしょうと
アドバイスいただきました♪(by Qきちさん♪)
なるほどっ! それは楽しい(#^-^#)
しかし、ろくに考えなしで進めてきちゃったので、
言い回しや話の展開で
チグハグしてしまっているところも多々あることと・・・。
まぁ、結局は僕の独り言・・・。
ただし、無駄に長いので、要注意です(笑)。
★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・
今日は、12月24日。
街には、街路樹に飾られたイルミネーションに誘われるように
たくさんの人々が行き交う。
仕事帰り、同僚の人と談笑しながら
群れをなして居酒屋へ移動する人たちもいれば、
仲睦まじく手を握りながら
夕闇と柔らかい光の混ざり合う夜の街を
自分達だけの世界に変えているカップル達もいたり・・・
それぞれの人に、それぞれの時間が流れる
繁華街の一角。
私は今日、「サンタさん」になる。
「サンタさん」と言っても、単なるバイトである。
すっかり日も暮れて身体の芯まで冷える空気の中、
ミニスカサンタのコスプレをして
沿道でクリスマスケーキを売るのが、私の仕事。
最近は、予約をしてケーキを買う人が多いのに…と思うのだが、
昔ながらのこのスタイルも、イヴの今日に限っては
少なからず需要があるそうで・・・。
「今日」という日に、特に予定のない私は
街の中で、せめてクリスマスの雰囲気でも味わおうと
このバイトをすることにしたのだが、
笑顔でいようと努めるほど、心の中は寂しくなる…。
なんでこんな日に、私はこんなことをしているのだろう。
どうせなら、温かい部屋の中で
いつものように
テレビを見ながら夕ご飯を食べていた方が
よっぽど良かった…。
ああ、むなしい―――
「そこそこ売れるよ」と聞いていたのに、
2時間の間に売れたのは、1箱だけ。
会社の人からは、「全部売れるまで帰ってくるなよ」と言われているのに・・・
これじゃあ、いつまで経っても帰れない。
場所が悪かったのかな?
この場所は、会社の人に指定された場所だから
他の場所へ移動して売るなんて事はしないけれど、
この場所、大通りから1本入った道で、
人通りもあまり多いほうじゃない。
見通しが悪くて、大通りのイルミネーションが切り取られたみたいに
ちょっとしか見えない。
ああ、せめて
クリスマスイルミネーションが豪華に見える
駅前正面広場にいられたら、
気持ちも幾分か晴れたかもしれない。
この場所は、何だかイヴから「仲間はずれ」になったみたいだよ・・・。
『ヒュォ・・・』
ふあぁ・・・、深夜の冷え込みを感じさせる重たくて冷たい風が吹いてきた。
かかとから足の指先への感覚がなくなってきてる。
ひざと肩の関節が痛い。
何だか急に、気が遠くなってきた・・・。
さっ、寒いよ。
コートを着たいけれど、
コスプレの上からコートを着たら仕事にならない・・・。
うううううっ・・・。
あごとひざをガタガタいわせていると、
通りを挟んだ向こう側のお店がその日の営業を終えようとしていた。
えっ? 今、何時??
げっ、もう11時40分じゃん。
終電もなくなっちゃうよ。
でも、まだ売れ残った箱の山が・・・
どうしよう。
そんなとき、駅へ向かう一団が通りかかった。
同じ会社の人たちの集団のよう。
その中の一人の人が、
「おう、こんなに遅くなっちゃって奥さんもカンカンなんじゃないか?
せめて、ケーキでも買って帰れば
機嫌もおさまるんじゃねぇ?」
それに対して、
「うーん、それもそうだが、
嫁さんも家の近くでケーキを買っているかもしれんし。
二人ともケーキを買っちゃうと、家では食べ切れんからなぁ。」
最初に嬉しい展開を予想させる一言があったことで、かえって
もう一人の人の反応は、想像以上にダメージが大きい。
この時間だと、もうこの団体が最後の頼みの綱なのに・・・
「それもそうだな。 んじゃ、みんな行くか?」
そんな素っ気無い顛末で終わってしまいそうになったその瞬間、
「おっ、最近には珍しいね。 こんなところでケーキを売っているなんて」
会社員風の爽やかな雰囲気の男性が声をかけてくれた。
最初は今の一団の人かと思ったが、
その人の言葉に反応する人が他にいなかったので
この人は、他の方とはお仲間ではないということが分かった。
「最近は、予約を受けて作り置きしたものを
今日まで冷凍保存しておく店が多いんだよね~。
そういうケーキは見た目は他と変わらないんだけれど、
スポンジケーキがパサついて、あんまり美味しくないんだ。
このケーキも、冷凍なの??」
今まで、それらしい会話を振ってくれるお客さんもいなかったので、
ちょっとビックリしたけれど、努めて平常心で答える。
「いえ、このケーキは本日作ったものです。
家族ぐるみでやっている小さなお店のケーキで、
スポンジケーキを焼くのも、生クリームを塗るのも
数人の作り手が今朝から夕方までかかって行ったものです。
見た目はシンプルですが、
スポンジもクリームもフワッと柔らかくて、美味しいケーキですよ。」
疲労困憊の中、よくここまで言えたものだ。
初対面の人とは上手く話せる自信のない私だったが、
「この人」とは、不思議と打ち解けられた。
でも、
このお店のケーキ、実は食べたことがなかった。
ただ、ここへ来る前に
家族ぐるみでいそいそと作っている姿を見て、
「私も食べたいな♪」と、そう思ったのだ。
自分自身で美味しいかどうか確かめたわけでもないのに
口から出任せを言ってしまった。
『早くこの仕事から解放されたい』という邪まな気持ちから
ついつい出てしまった嘘。
私は、優しく声をかけてくれたこの男性の目を見ることができなかった。
正しく言うと、一瞬目を合わせたものの、私が不自然に
視線を背けてしまったのである。
きっと、これはもう売れないだろう。
「落胆」という感情が、空腹の胃を重たくした。
何だかチクチク痛むような気さえした。
ところが、その男性。
この「明らかな嘘」に全く気付かなかったように、
笑顔で話を続ける。
「それはいいね! 僕、ぜひ買って帰るよ。
今日は残業が長引いて、ろくにクリスマス気分も味わえずにいたんだ。
コレを家で食べて、クリスマス気分にでも浸るとするよ。」
そう言って早々に御代を差し出す男性。
引き換えに、ケーキ1箱を両手で丁寧に手渡した。
なんだろう。 今まで感じなかったこの温かい感じ。
さっきまで胃の辺りがチクチクしていたのに
ふっと軽くなったような。
そして、何だか胸の辺りがホカホカしてきたみたい。
・・・嬉しい。
せめてこの人に、笑顔でお礼を、・・・と思った瞬間、
「ありがとう!」
ケーキの箱を受け取るや否や、お客の彼から先んじての一言。
すぐにお礼を返さなきゃと思うまでのその合間、
私は豆鉄砲を食らったようなおかしなボケ顔を披露していたことだろう。
「あっ、あ、ありがとうございましたっ!!!」
深々と頭を下げると、
その頭を上げたときには、もう、
その人はいなかった。
歩道の右に行ったのか、それとも左に行ったのか。
せめて、その人の後姿だけでも見送りたいと思ったのだが、
その姿はもうどこにもなかった。
「・・・、やっぱり買っていこうかな?
俺にも1箱くれよ。」
さっき、会話の中で買わないと言っていた男性も、
先ほどの人の影響からか、決心を改めたようである。
「私も買う! 帰ったらクタクタだろうから、
コレ食べて、寝るわ。」
「え~、寝る前に食べたら、めっちゃ太るよ~。
でも、私も食べてみたいかも。」
結局、あの人の一言で、
通り掛かりの団体さんに買ってもらえることになった。
一人一人に丁寧に箱を渡していって、
ちょうど、皆さんに1つずつ箱を渡していくと
きれいさっぱりなくなったのであった。
任務完了である。
今、何時なのだろう?
人通りがさっぱりとなり、
さっきまで点灯していた店の明かりも
道のイルミネーションもすこしずつ消えていく。
ついに、この繁華街にも「眠り」の時間がやってきたのである。
さっきまでケーキの箱が並んでいた長机に寄りかかって
ちょっと休憩してから帰ろうと
フッと肩を落とすと、
急に睡魔が襲ってきて
その場に倒れそうになった。
時間は深夜0時50分。
周りに誰もいないことを確認して、
大胆にも
長机の上で横になる私・・・。
机の上で寝るなんて、初めて。
自分が机の上で寝転んでいるのを
他の人が見たらどう思うだろう?
それを想像すると、何だかおかしい。
酔っ払いと間違えられるかな??
冷たい風が吹き続ける中、
ひざを抱えてまぶたを閉じると、
さっきまで顔に当たっていたはずの冷たさが
何かにさえぎられたように、急に当たらなくなった。
風が止んだ?
ちょうどいい、少し、
ほんの少しだけ眠ってから帰ろう。
常識では考えられない行動。
私の中の疲労は、そんなことも分からなくさせるぐらい
頭や身体に重たくのしかかっていたのである。
肌が感じる寒ささえ感じなくなりそうな
まさに眠りに落ちる、その瞬間に
天使のような柔らかい声が、まるで粉雪のように
私の耳元にそっと舞い降りた。
「こんなところで寝たら、風邪を引きますよ。
可愛いサンタさん。」
??
きっと、気のせい。
こんな時間にこんなところを誰も通らない。
・・・でも、
まぶたを開けるなら、今しかないような…
これ以上横になっていると
朝まで眠ってしまって
ひどいと凍死してしまうかもしれない。
「う~ん…」
重いまぶたをしぶしぶ開こうとした
そのとき、
温かさが頬を包んだ。
手袋をしているのか、ふわっとした温かい手のひらが
凍りかけた頬に体温を与える。
えっ!!?
長時間の緊張から開放され
ついつい緩んでしまっていた心が
急に締め付けられるように感じた。
誰か、いる!!!
今、起きないと大変なことになる。
心は凍りつくようにヒヤッとするのだが
おかしい、体が言うことを聞かない。
何時間も冷たい風にさらされていた太股やひざが
感覚を失って、
ついにはひざの曲げ伸ばしができないぐらいまでになっていた。
また、
同様に肘も冷え切っていて腕の自由も利かない。
無防備に横たわる自分の目の前に
今、確実に誰かがいるのに
何もできない自分。
ヤバイ。
やっぱり、路上で横になるなんて
無謀だった…。
怖い。
誰か、助けて…
「おっと、お楽しみはとっておくものですよ。
今は、どうか安らかに・・・」
重たいまぶたを見開こうとしたそのとき
両まぶたの上に
手袋をした指がそっと触れる。
この人は、いったい何を・・・?!
何とかして、これを外さなくては。
そう思い、大きく息を吸い込み、首を左に振ろうとした瞬間、
意識がさらに遠のいていくのを感じた。
薬?
理性で抑えていた睡魔が、四肢に残っていたかすかな意識さえも
全て奪い去ろうとしていた。
薄れゆく意識を、少しでも長く保っていようとするが、
私の身体が「手袋の主」の意のままになるのに
さほど時間は必要ではなかった。
――口を利かない、マリオネット――
『パチッ、バサバサ』
何かが外れる音と、
大きい布が風を受けて翻る音がする。
その直後、自由の利かない身体に
大きい布のようなものが
布団のように体にかけられた。
次の瞬間、体が強い力で持ち上げられる。
背中とひざの裏を支えられている感覚だけが伝わってくる。
…私はどこかへ…連れ去られる…ようだ…
久し振りに全身に温かさを感じて、
硬直していたはずの気持ちさえも
いつの間にか眠らされていたようで。
恐怖も不安も全てが、夜の闇の中に消えた・・・
★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・
「さあ、目を開けてください。お嬢さん・・・」
その声を聞いて、初めて自分が眠っていたことに気が付く。
薄っすらと目をあけると、
眼下に星屑の海が広がる。
「えっ? あっ?? 何???
ここ、どこ? キャッ」
不意に立ち上がった瞬間、空中に体が投げ出された。
手袋をした手によって、間一髪引き戻される。
「おっと。危ない、危ない。
折角ご案内いたしましたのに、
この場所はお気に召しませんでしたか?」
自分達を支える床がとても狭くて、
見渡す限り、壁も天井もない。
吹きすさぶ風が、今までに感じたこともないほどに重みを持っている。
もしかして、夢の続き?
それとも、あの世にでも来てしまったのかしら?
自分のおかれている状況が全くつかめない不安から、
ただただ、隣りに座っている真っ白な格好をしている人の顔をじっと見詰めた。
その人は眼鏡をかけている。
それも、片方だけに・・・
白いシルクハット、白いマント。全身、真っ白。
でも、ネクタイは、赤。
見たこともない格好の人。
私は、その人が気付くまでずっと、
その人の横顔を見詰めた。
すると、その人は
私が見詰めているのに気付いて、
じっと目を合わせてくる。
ふと、その人は満面の笑顔を見せてくれた。
視線を少し下に落として、その人が言った。
「寒くないですか?」
そういえば、さっきまで
凍えるように寒かった。
しかし、今は不思議と寒くない。
どうして?と、自分も視線を下に落とすと、
自分の格好が変わっていることに気付く。
「あれ? さっきまでスカートだったのに…」
「ええ。とてもお似合いだったので、
本当はそのままの格好でいていただきたかったのですが、
あの格好のままでは、体が衰弱してしまうので
僕のをお貸ししたのです。」
私は、ズボンのサンタスーツを着ていた。
さっきまでのミニスカサンタのコスプレは、
生地も薄くて肌寒かったが、
今着せてもらっている服は、肌触りがフワフワしていて
とても温かい。
「このスーツは、寒さにとっても強いのですよ。
これなら、本場の雪山も
トナカイのソリに乗って越えることができるでしょう。」
私は、この人が誰なのか、知らない。
でも、もう少し
ここでこの人と一緒にいたい。
そう、思った…
「あの、あなたは
もしかして、サンタさんですか?
とってもお若いサンタさんなのですね。」
今の質問に、この人はすぐには答えなかった。
少し下を向いて笑い、そしてこちらを向いて答えてくれる。
「私自身も、そうであればよかったと思いますが・・・、
残念なことに、私はサンタクロースではないのです。
むしろ、その逆。
与える者ではなく、奪う者。
言うなれば、『コソ泥』です。」
とっても温かくて優しい笑顔が
少し曇ったように見えた。
しかし、少し変である。
『泥棒』というのは、闇夜に紛れ
目立たないように動き回る者であり、
服装も、夜空を思わせる深い色をまとうはず。
しかし、この人は、闇夜には全く染まらないで
凛と輝いているように見えた。
そう、まるで一輪の白い薔薇のよう・・・。
「あはは☆ 本当に?
あなたは決してそんな風に見えないよ。
人から物を盗むなんて。
…私が見るに、まるで聖なる夜に、
地上に舞い降りた『天使』。
そうでなければ、
みんなの心に夢をプレゼントしてくれる『魔法使い』。
現に、
冬の寒さに心も身体も凍えそうになっていた私を
こんな素敵な場所に救い出してくれたじゃない?
私、こんなにキラキラ輝く海に来たのは初めて♪
いっそ、この海に飛び込んでしまいたいぐらい。」
半ば無理やり連れてこられたこの状況を肯定的に受け止め、
無邪気にテンションをあげる私に
この人は呆気にとられたようだった。
しかし、その時間もほんの一瞬。
何か核心を得たように笑顔を浮かべて
力強く切り返す。
「はははははっ!
有無を言わせずあなたを連れ去り、
さらに天空のかごに閉じ込めている私を『天使』とは。
よろしい・・・、
今宵、あなたの『羽』となり、『魔法の杖』となりましょう。」
口元に不敵な笑みを浮かべて、熱い眼差しを投げ掛けてくる「彼」。
右手を差し出し、私の『答え』を待っている。
今の私に、選択肢は1つだった。
右手には、右手で応える・・・
『・・・ッポン☆』
私が彼の指先に触れようとした、丁度そのとき、
シャンパンのコルク栓が抜けるような音がして
次の瞬間には
彼の手に、赤い薔薇が1輪、握られていた。
「うわぁ・・・♪」
ロマンティックな演出に、酔ってしまいそう。
この魔法が解けてしまわないように、
そっと、両手で包み込もうとしたその瞬間
私の視界の全てが、「彼」の胸に吸い込まれた・・・
「・・・えっ?」
「彼」の両腕の中に、私の身体がすっぽりと隠れてしまった。
肩から背中、そして腰に強い力を感じる。
頭の中が、真っ白に・・・なった。
苦しくて、・・・息ができない。
頬が熱くて、焦げてしまいそう。
胸の高鳴りが、耳元で聞こえるみたい・・・
こんなとき、どうすれば・・・いい?
「彼」の唇が私の耳元で揺れる。
「私を、決して放さぬように・・・」
「彼」の囁きは、神の御手を呼び寄せる。
『カシュ―――ン・・・、バダッ!』
「彼」の羽が、冬の冷たい風をつかんだ。
神の御手にいざなわれるように、
二人の身体は夜空へ投げ出される。
恐る恐る「彼」の胸から顔を離すと、
さっきまで遠くで瞬いていた
眼下の煌きが手に届くよう・・・
「信じられない・・・、空を、空を飛んでる・・・」
「彼」をつかんでいる両腕の力が、フッと抜けてしまった。
「わっ・・・」
空中に投げ出されそうになる私の手をつかんで、
「彼」はビルの屋上を目指す。
「本当に、あなたは懲りない人だ。
あなたといると、命がいくつあっても足りない。」
ビルの屋上に私を立たせると、
「彼」は幼子の顔を覗き込むように
私の瞳を見つめた。
「ごっ、・・・ごめんなさい。」
私はとっさに目線を伏せる。
なぜかしら?
「彼」の瞳は私の胸の奥の奥まで見透かしてしまいそうで・・・
何だか顔が熱い、・・・気がする。
「イルミネーション煌く海は、いかがでしたか?
ここからだと、海の底に手が届きそうではありませんか。
目の前に立っているのが、
我々が先ほどまで宿っていた、もみの木ですよ。」
「彼」の指差す先には、東都タワーが輝いている。
いつもはオレンジ色を帯びているタワーが
クリスマスのこの日だけ、greenに色を染める。
これほどまぶしさを覚える夜はない。
もし、この世に神様がいるなら、
今日のこのときを与えてくださったことに
感謝しなくては・・・
不意に胸の内の感情が抑えきれなくなって
目に涙がにじんだ。
「彼」に気付かれたくなくて、
夜空を見上げる。
そのとき、気付いたのである。
ここにあるべきなのに、無い物。
そして、なぜここに「彼」がいるのかを・・・
★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・
日付は、12月25日。
朝日が昇るまで、あと約5時間。
「彼」は、待っている。
全ての人を魅了する
「魔法」をかける、その時を・・・
もし、そうであるのなら
私は彼が「奇跡」を起こすのを見届けたい、
そう思った・・・
「ねえ、どうして?」
わざと、「彼」を困惑させるような問い掛けをしてみる。
ちょっとした、逆襲。
こちらが驚かされっぱなしでも癪である。
「・・・それは、あなたが私の可愛い『サンタさん』だからです。」
私は「彼」が
動揺の色の一片でもいいから見せてくれるのではないかと
期待していた。
しかし、あっさり切り返され
今度はこちらの心に波紋が浮き立つ。
・・・、ああそうか。
この質問をストレートにぶつける私の方が
野暮なのね。
でも、今の私に
着飾って見せるなんて、ゆとりはない。
私は、自分の想像していることが
どこまで合っているのか、答えあわせがしたいの。
「空気」の色を読むなんて、私にはできない。
厚いベールに包まれている、あなたの胸の内を
言葉に紡いで見せてほしい――
「彼」は大人である。
私の表情を見て、私の心の言葉を
全て読み取ってしまう。
「今日は、どうしても外せない約束が2つもあり、
とても焦っていました。
ひとつは、『仕事』。もうひとつは『大切な人との宴』です。
私は『大切な人』と、こんな約束を交わしていました。
“宴には、とびっきり美味しいケーキを持っていく”と。
ところが、今日は
仕事場でとんだサプライズ・プレゼントをいただき、
都合していたケーキを持っていくことができなくなってしまった。
・・・でも、今では
その『サプライズ』に感謝しています。
お陰で、こんな美味しいケーキと
可愛い「サンタさん」に出会うことができたのですから。」
「彼」はそう言い終えると、
私がついさっきまで溜息をついて見詰めていた
『困り物』の箱を取り出した。
「あれ?? 全部売れたはずなのに、なぜここに??」
思わず眉をしかめる。
「そんなお顔をされないでください。
僕にとっては、Happy Box なのですから。」
「??? ・・・!
もしかして、あなたは
あのときの・・・☆」
「彼」のとびっきりの笑顔と爽やかなウインクに
胸が熱くなる。
「あっ、あのときは
本当にありがとうございましたっ!!!」
改めてお礼を言うことができ、幸せな気持ちでいっぱいになった。
「あなたはもう、召し上がられましたか?
もし宜しかったら、ご一緒に♪」
封を開けると、真っ白なクリームの上に
真っ赤なイチゴが笑っている。
ツリーに、トナカイ、そしてサンタがはしゃいでいるように見えた。
「わっ♪ 美味しそう☆
こんなに可愛いケーキだったなんて!
見ているだけで、ウキウキしちゃう。
ついさっきまで、悪者扱いをしてしまい
本当に申し訳ないっ!!
実は、食べたい・食べたいって思っていたのです♪」
円いケーキに「彼」がナイフを入れてくれる。
放射状に8つに切れ、あとは食べるだけ♪
そこに、意外な難関が立ちはだかる。
「しまった! フォークを忘れてしまった・・・」
もう見るのを諦めていた、「彼」のはにかむ笑顔。
「あははははっ♪ どうしましょう?
クリームだけなら、ほら、こうやって・・・」
指でクリームをすくって、ぺロッ☆
「そうか! その手がありましたか。
それがセーフなら、この手もありでしょ?」
「彼」は白い手袋を外して、
ケーキの丸い背中をそっとつかんだ。
そのまま口元へ。
口の周りは、まるでサンタさんのお髭のよう。
「きゃはっ♪ それはいいアイディア!
私も私も・・・。 ほら、本物のサンタさんみたいでしょ♪」
澄み切った空気に私達の笑い声が響いていく。
ビルの壁に反射して、帰ってくるものもあれば、
どこまでも駆け抜けていくものも・・・。
しかし、それらはいずれも
夜空の深みに吸い込まれていった。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。
今日はなんて愉快な日じゃ。
今宵、驚くべきことに
サンタであるワシにまでも、プレゼントがやってきた!
こんな嬉しいサプライズはない。
今宵訪れた全ての『出会い』に
心より感謝申し上げる。
・・・さて、サンタクロースにもプレゼントを届けてしまう
変わり者の“ニューフェイス”にも、
何かプレゼントを渡すとしよう!!
さて、何が宜しいかのう?
ルール違反じゃが、直接本人に聞いてみようかのう?」
悪ノリが過ぎたかと
自分の言動を想起し、思わず赤面。
何となく、そこに居たたまれなくて
どこに行くわけでもなく、歩き始める。
口の周りについたクリームを人差し指で掬い取って
唇へ。
甘くて幸せな香りに、
“このまま朝が来なければ、いいのに・・・”と
叶えられるはずもない愚かな願い事を
心の中でつぶやく。
「では、サンタの中のサンタ様。
私めにも、ひとつプレゼントしていただきたいものがございます。」
コツ・コツ・コツ・・・
フラフラと、フワフワと立ち歩く私のもとへ
迷いなく、真っ直ぐに歩み寄る「彼」。
左胸に手を当て、立てひざをついて
私の前に座ると、
シルクハットを取り、
生クリームよりも甘く、
マシュマロよりも柔らかいのではと思われるような
優しい声を奏でてくれた。
一体、どんなことを言ってくれるのか、
ドキドキで心臓が飛び出しそうになる。
「雪を、
・・・雪を、降らせていただきたいのです。」
「彼」は、頭を傾げ、まぶたを閉じたまま
私のリアクションを待っている。
「彼」は、少年でもある。
私がもし「彼」の立場であれば、
この成行きで、こんな
祈りにも似た『願い』を
相手に向けない。
「彼」が手のひらを返すように容易く
次々と奇跡を起こして見せるのは
何事にも臆しない
芯の通った信念を
いつも揺ぎ無く心に帯びているからであろう。
私が、今
問われているのは
奇跡を実現させる神がかり的な魔力ではない。
非力であることを知りつつも、
大勝負に打って出る気概があるかどうか。
それを、試されているのである。
――私は「彼」の
本当のサンタクロースになれるだろうか?――
・・・、いや
「なれるかどうか」ではなく、「なるかどうか」である。
心の強さを問われる場面を
ことごとく避けて通ってきた私。
立っているだけで息が上がるほど
胸は鼓動を早める。
できるなら、いっそここから消えてなくなってしまいたい。
しかし、ここは高層ビルの屋上。
逃げ込む場所なんて、どこにもない。
・・・それに、今は逃げたくなんかない。
私の心は、決まった・・・!
「ふぉ、ふぉ、ふぉ! 心得たっ。
今宵、この街に雪を降らせてみせましょう☆」
・・・
私の『予想』は、半分合っていて、半分間違っていた。
「彼」は、この街に
雪を降らせようと願っている。
それは、思ったとおりであった。
しかし、その願いを私が叶えることになるとは。
私は彼の「魔法」を、数多く目の当たりにした。
てっきり、その「魔法」で
雪まで降らせてしまうのではと思ったのだが・・・。
しかし、
安請け合いした「プレゼント」を
果たして私なんかが用意できるのか・・・?
私は、彼のような「力」は
何一つ、持ち合わせていない・・・。
あとは、「運」次第だ。
★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・
~ きよし この夜 星は光り
救いの御子は 馬槽の中に
眠り給う いと安く
この歌の歌詞は、日本語訳が一番ぴったり来る。
勝手にそう思っている。
天にまします“声の主”へ
かつての約束を果たしてくれるよう、願い出る。
~ きよし この夜 御告げ受けし
牧人達は 御子の御前に
ぬかずきぬ かしこみて
時は遡ること、10年前・・・
私は、姿の見えぬ“声の主”と、ある約束をした。
「神様、今日はクリスマス・イヴですね。
明日の朝、目を醒ました時に
どうしても手にしたいプレゼントがあるのです。
この願い、ぜひ聞き届けてください・・・」
♪~ 雪や こんこん あられや こんこん
ふっても ふっても ずんずん つもる。
犬は よろこび にわ かけまわり
ねこは こたつで 丸くなるっ!
2階のベランダから空を仰いで
思いっきり大きい声で歌った。
すると、どこからともなく “声”が返ってくる。
「ブブゥ~★ 惜しい!! ちょっと、違うんだなぁ。
コレじゃあ、君の願い事を聞いてあげられないよ?」
頭の上から声がする。
ベランダから屋根の上をのぞいてみるものの、
誰の姿も見えない・・・
このとき、警戒心など持ち合わせていない私は
父に話でもするように、気持ちをぶつけた。
「えぇ~? 違うのー??
でも、みんながこうやって歌ってたよ?
じゃあ、本当はどんな歌なの??」
“天の声”は教訓的である。
「だぁめ!! 簡単に『答え』なんか教えてあげないよっ★
知りたかったら、自分で調べること!
またやって来るイヴの夜に
ちゃんと歌うことができたら、
君に雪をプレゼントしよう。」
「ホント?? 絶対だよ! 約束だからねーーー!」
“声の主”との約束は、「イヴの夜」。
ちょっと遅刻しちゃったけれど、聞いてもらえるかな??
あの約束は、きっと
今夜のためにあったものだから・・・。
~ 雪やこんこ 霰(あられ)やこんこ
降っては降っては ずんずん積る
山も野原も 綿帽子かぶり
枯木残らず 花が咲く
~ 雪やこんこ 霰やこんこ
降っても降っても まだ降りやまぬ
犬は喜び 庭駈けまわり
猫は火燵(こたつ)で丸くなるっ♪
両手を天に差し伸べ
瞳を閉じて、“声”を待つ。
父のような、気さくな言葉掛けを・・・
・・・
でも、“声の主”は
私との約束をすっかり忘れてしまったようだ・・・
いや、約束は「イヴの夜」。
今は、日付変更線を越した25日である。
今宵の願い事は
果たされる筋合いのないもの・・・。
澄み切った聖夜に
なんて図々しい願いを・・・
愚かな自分に涙が止まらない。
すると、
いつぞやかの手袋の感触が
頬に触れた。
「・・・ごっ、ごめんなさい。
あなたに雪を、・・・プレゼントすることができなかった。
本当に、ごめんなさい。」
「彼」の手は
頬の涙を拭い去り、
今度は
手袋を脱いだ素の肌で
頬を包む。
「これほどまでに、身体を冷やしてしまっていたなんて・・・」
凍りかけた頬の冷たさが
「彼」の手のひらににじみゆくのを感じた。
「彼」の瞳が悲しみの色をたたえる。
「・・・そんなことは、よいのです。
私のわがままで
あなたをずっと寒空の下に留めてしまいました。
私の罪深き振る舞いを、どうか・・・」
「彼」の声が、ふっと途切れた。
何事か起こったのであろうか・・・?
・・・その原因を作っていたのは自分であったことを
気付くことができたのは、それから数分の後――――――
「あ・・・、温かい。」
膝をついて倒れ掛かっていた私を
白い羽に包み込んで
「彼」はずっと支えてくれていたのである。
さっきまでずっと寒かった首筋が温かい。
私が気を失っている間、
ずっと「彼」の頬が
私の頬に体温を与えてくれていた・・・
「彼」の吐息を首筋に感じる。
おかしい・・・
こんなに近い距離にいるのに、
ドキドキ感よりも、安心感に包まれている私。
これ以上、「彼」の近くにいてはいけない。
「彼」のぬくもりを忘れられなくなる、
離さずにはいられなくなる、
求めずには、いられなくなってしまう・・・。
「このまま、朝まで目を開けなくてもよいのですよ。
あなたが目覚めるそのときまで、
私がここにおりますから。」
「いいえ。 これ以上、あなたに甘えるわけにはいきません。
25日の日の出に向けて、カウントダウンが始まりました。
世の皆さまが夢から目覚めるその前に・・・、
私はここから立ち去ります。」
身体を支えてくれていた「彼」の腕から立ち出でて
コツ、コツ、コツ・・・。 3歩後ずさりする。
心配はかけられない。
右足を軸に360度回転して
とびっきりの笑顔に努めた。
「彼」には、これ限りで私を忘れてほしい・・・
でも、もし記憶の片隅にでも置いてもらえるなら、
願わくば、この笑顔だけを胸に・・・。
笑顔に笑顔で返してくれる・・・、
「彼」は私の気持ちにどれぐらい気付いただろうか?
「・・・賛美歌109番には、3つ目の歌がまだ残っています。
よければぜひ、その歌をお聞かせ願えませんでしょうか?」
気持ちにけじめをつけるチャンスを与えてもらった――。
泣きたい気持ちを堪えて
夜空に声を発する。
今宵の出会いに最高の感謝の気持ちを込めて・・・
~ きよし この夜 御子の笑みに
恵の御世の 朝(あした)の光
輝けリ ほがらかに
「う・・・、うぁ。」
突如、足下から天に向けて吹き上げる
つむじ風にも似た突風が襲い掛かる。
私のサンタ帽子だけでなく、
彼のシルクハットまで巻き上げられる・・・
その突風は、同時に「彼」の片眼鏡まで持ち去った――
飛ばされた物たちに視線をやると
空はもう、白み始めていた。
視線を、恐る恐る彼に向ける。
突如として起きた風の来襲に目を丸くしていたが
すぐにこちらに目を向けてくれる。
私の不安そうな顔を見て、
表情で語ってくれる・・・
「(大丈夫。)」
今までで、一番優しい表情に見えた。
私は、「彼」を忘れない。
この笑顔をずっとずっと・・・
次の瞬間、鼻の頭に冷たさを感じた。
再び空を見上げる。
すると、・・・
やってきたのである。
街を幸せ色に染める、雪の精が・・・。
「わぁっ、やった・・・、やったーーー☆☆☆」
天に気持ちが届いたこと、
そして、「彼」とひとつのことで喜び合えることに
嬉しさで身が震えるようだった。
この広い地上に生を受けし人々は、
時間と空間の中に足跡を残しながら、各々が人生の旅を続ける。
その道が交わり、出会うことができたその奇跡が
かけがえのない『感動』を呼び起こしてくれるものなのだろうか・・・
『出会い』は、『別れ』の始まり。
けれど、一度紡がれた気持ちは
これからも、つながり続ける。そう、信じたい。
この地上に立つ限り、
仰ぐ空は、いつもつながっているのだから―――――。
今日は、12月24日。
街には、街路樹に飾られたイルミネーションに誘われるように
たくさんの人々が行き交う。
仕事帰り、同僚の人と談笑しながら
群れをなして居酒屋へ移動する人たちもいれば、
仲睦まじく手を握りながら
夕闇と柔らかい光の混ざり合う夜の街を
自分達だけの世界に変えているカップル達もいたり・・・
それぞれの人に、それぞれの時間が流れる
繁華街の一角。
私は今日、「サンタさん」になる。
「サンタさん」と言っても、単なるバイトである。
すっかり日も暮れて身体の芯まで冷える空気の中、
ミニスカサンタのコスプレをして
沿道でクリスマスケーキを売るのが、私の仕事。
最近は、予約をしてケーキを買う人が多いのに…と思うのだが、
昔ながらのこのスタイルも、イヴの今日に限っては
少なからず需要があるそうで・・・。
「今日」という日に、特に予定のない私は
街の中で、せめてクリスマスの雰囲気でも味わおうと
このバイトをすることにしたのだが、
笑顔でいようと努めるほど、心の中は寂しくなる…。
なんでこんな日に、私はこんなことをしているのだろう。
どうせなら、温かい部屋の中で
いつものように
テレビを見ながら夕ご飯を食べていた方が
よっぽど良かった…。
ああ、むなしい―――
「そこそこ売れるよ」と聞いていたのに、
2時間の間に売れたのは、1箱だけ。
会社の人からは、「全部売れるまで帰ってくるなよ」と言われているのに・・・
これじゃあ、いつまで経っても帰れない。
場所が悪かったのかな?
この場所は、会社の人に指定された場所だから
他の場所へ移動して売るなんて事はしないけれど、
この場所、大通りから1本入った道で、
人通りもあまり多いほうじゃない。
見通しが悪くて、大通りのイルミネーションが切り取られたみたいに
ちょっとしか見えない。
ああ、せめて
クリスマスイルミネーションが豪華に見える
駅前正面広場にいられたら、
気持ちも幾分か晴れたかもしれない。
この場所は、何だかイヴから「仲間はずれ」になったみたいだよ・・・。
『ヒュォ・・・』
ふあぁ・・・、深夜の冷え込みを感じさせる重たくて冷たい風が吹いてきた。
かかとから足の指先への感覚がなくなってきてる。
ひざと肩の関節が痛い。
何だか急に、気が遠くなってきた・・・。
さっ、寒いよ。
コートを着たいけれど、
コスプレの上からコートを着たら仕事にならない・・・。
うううううっ・・・。
あごとひざをガタガタいわせていると、
通りを挟んだ向こう側のお店がその日の営業を終えようとしていた。
えっ? 今、何時??
げっ、もう11時40分じゃん。
終電もなくなっちゃうよ。
でも、まだ売れ残った箱の山が・・・
どうしよう。
そんなとき、駅へ向かう一団が通りかかった。
同じ会社の人たちの集団のよう。
その中の一人の人が、
「おう、こんなに遅くなっちゃって奥さんもカンカンなんじゃないか?
せめて、ケーキでも買って帰れば
機嫌もおさまるんじゃねぇ?」
それに対して、
「うーん、それもそうだが、
嫁さんも家の近くでケーキを買っているかもしれんし。
二人ともケーキを買っちゃうと、家では食べ切れんからなぁ。」
最初に嬉しい展開を予想させる一言があったことで、かえって
もう一人の人の反応は、想像以上にダメージが大きい。
この時間だと、もうこの団体が最後の頼みの綱なのに・・・
「それもそうだな。 んじゃ、みんな行くか?」
そんな素っ気無い顛末で終わってしまいそうになったその瞬間、
「おっ、最近には珍しいね。 こんなところでケーキを売っているなんて」
会社員風の爽やかな雰囲気の男性が声をかけてくれた。
最初は今の一団の人かと思ったが、
その人の言葉に反応する人が他にいなかったので
この人は、他の方とはお仲間ではないということが分かった。
「最近は、予約を受けて作り置きしたものを
今日まで冷凍保存しておく店が多いんだよね~。
そういうケーキは見た目は他と変わらないんだけれど、
スポンジケーキがパサついて、あんまり美味しくないんだ。
このケーキも、冷凍なの??」
今まで、それらしい会話を振ってくれるお客さんもいなかったので、
ちょっとビックリしたけれど、努めて平常心で答える。
「いえ、このケーキは本日作ったものです。
家族ぐるみでやっている小さなお店のケーキで、
スポンジケーキを焼くのも、生クリームを塗るのも
数人の作り手が今朝から夕方までかかって行ったものです。
見た目はシンプルですが、
スポンジもクリームもフワッと柔らかくて、美味しいケーキですよ。」
疲労困憊の中、よくここまで言えたものだ。
初対面の人とは上手く話せる自信のない私だったが、
「この人」とは、不思議と打ち解けられた。
でも、
このお店のケーキ、実は食べたことがなかった。
ただ、ここへ来る前に
家族ぐるみでいそいそと作っている姿を見て、
「私も食べたいな♪」と、そう思ったのだ。
自分自身で美味しいかどうか確かめたわけでもないのに
口から出任せを言ってしまった。
『早くこの仕事から解放されたい』という邪まな気持ちから
ついつい出てしまった嘘。
私は、優しく声をかけてくれたこの男性の目を見ることができなかった。
正しく言うと、一瞬目を合わせたものの、私が不自然に
視線を背けてしまったのである。
きっと、これはもう売れないだろう。
「落胆」という感情が、空腹の胃を重たくした。
何だかチクチク痛むような気さえした。
ところが、その男性。
この「明らかな嘘」に全く気付かなかったように、
笑顔で話を続ける。
「それはいいね! 僕、ぜひ買って帰るよ。
今日は残業が長引いて、ろくにクリスマス気分も味わえずにいたんだ。
コレを家で食べて、クリスマス気分にでも浸るとするよ。」
そう言って早々に御代を差し出す男性。
引き換えに、ケーキ1箱を両手で丁寧に手渡した。
なんだろう。 今まで感じなかったこの温かい感じ。
さっきまで胃の辺りがチクチクしていたのに
ふっと軽くなったような。
そして、何だか胸の辺りがホカホカしてきたみたい。
・・・嬉しい。
せめてこの人に、笑顔でお礼を、・・・と思った瞬間、
「ありがとう!」
ケーキの箱を受け取るや否や、お客の彼から先んじての一言。
すぐにお礼を返さなきゃと思うまでのその合間、
私は豆鉄砲を食らったようなおかしなボケ顔を披露していたことだろう。
「あっ、あ、ありがとうございましたっ!!!」
深々と頭を下げると、
その頭を上げたときには、もう、
その人はいなかった。
歩道の右に行ったのか、それとも左に行ったのか。
せめて、その人の後姿だけでも見送りたいと思ったのだが、
その姿はもうどこにもなかった。
「・・・、やっぱり買っていこうかな?
俺にも1箱くれよ。」
さっき、会話の中で買わないと言っていた男性も、
先ほどの人の影響からか、決心を改めたようである。
「私も買う! 帰ったらクタクタだろうから、
コレ食べて、寝るわ。」
「え~、寝る前に食べたら、めっちゃ太るよ~。
でも、私も食べてみたいかも。」
結局、あの人の一言で、
通り掛かりの団体さんに買ってもらえることになった。
一人一人に丁寧に箱を渡していって、
ちょうど、皆さんに1つずつ箱を渡していくと
きれいさっぱりなくなったのであった。
任務完了である。
今、何時なのだろう?
人通りがさっぱりとなり、
さっきまで点灯していた店の明かりも
道のイルミネーションもすこしずつ消えていく。
ついに、この繁華街にも「眠り」の時間がやってきたのである。
さっきまでケーキの箱が並んでいた長机に寄りかかって
ちょっと休憩してから帰ろうと
フッと肩を落とすと、
急に睡魔が襲ってきて
その場に倒れそうになった。
時間は深夜0時50分。
周りに誰もいないことを確認して、
大胆にも
長机の上で横になる私・・・。
机の上で寝るなんて、初めて。
自分が机の上で寝転んでいるのを
他の人が見たらどう思うだろう?
それを想像すると、何だかおかしい。
酔っ払いと間違えられるかな??
冷たい風が吹き続ける中、
ひざを抱えてまぶたを閉じると、
さっきまで顔に当たっていたはずの冷たさが
何かにさえぎられたように、急に当たらなくなった。
風が止んだ?
ちょうどいい、少し、
ほんの少しだけ眠ってから帰ろう。
常識では考えられない行動。
私の中の疲労は、そんなことも分からなくさせるぐらい
頭や身体に重たくのしかかっていたのである。
肌が感じる寒ささえ感じなくなりそうな
まさに眠りに落ちる、その瞬間に
天使のような柔らかい声が、まるで粉雪のように
私の耳元にそっと舞い降りた。
「こんなところで寝たら、風邪を引きますよ。
可愛いサンタさん。」
??
きっと、気のせい。
こんな時間にこんなところを誰も通らない。
・・・でも、
まぶたを開けるなら、今しかないような…
これ以上横になっていると
朝まで眠ってしまって
ひどいと凍死してしまうかもしれない。
「う~ん…」
重いまぶたをしぶしぶ開こうとした
そのとき、
温かさが頬を包んだ。
手袋をしているのか、ふわっとした温かい手のひらが
凍りかけた頬に体温を与える。
えっ!!?
長時間の緊張から開放され
ついつい緩んでしまっていた心が
急に締め付けられるように感じた。
誰か、いる!!!
今、起きないと大変なことになる。
心は凍りつくようにヒヤッとするのだが
おかしい、体が言うことを聞かない。
何時間も冷たい風にさらされていた太股やひざが
感覚を失って、
ついにはひざの曲げ伸ばしができないぐらいまでになっていた。
また、
同様に肘も冷え切っていて腕の自由も利かない。
無防備に横たわる自分の目の前に
今、確実に誰かがいるのに
何もできない自分。
ヤバイ。
やっぱり、路上で横になるなんて
無謀だった…。
怖い。
誰か、助けて…
「おっと、お楽しみはとっておくものですよ。
今は、どうか安らかに・・・」
重たいまぶたを見開こうとしたそのとき
両まぶたの上に
手袋をした指がそっと触れる。
この人は、いったい何を・・・?!
何とかして、これを外さなくては。
そう思い、大きく息を吸い込み、首を左に振ろうとした瞬間、
意識がさらに遠のいていくのを感じた。
薬?
理性で抑えていた睡魔が、四肢に残っていたかすかな意識さえも
全て奪い去ろうとしていた。
薄れゆく意識を、少しでも長く保っていようとするが、
私の身体が「手袋の主」の意のままになるのに
さほど時間は必要ではなかった。
――口を利かない、マリオネット――
『パチッ、バサバサ』
何かが外れる音と、
大きい布が風を受けて翻る音がする。
その直後、自由の利かない身体に
大きい布のようなものが
布団のように体にかけられた。
次の瞬間、体が強い力で持ち上げられる。
背中とひざの裏を支えられている感覚だけが伝わってくる。
…私はどこかへ…連れ去られる…ようだ…
久し振りに全身に温かさを感じて、
硬直していたはずの気持ちさえも
いつの間にか眠らされていたようで。
恐怖も不安も全てが、夜の闇の中に消えた・・・
★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・
「さあ、目を開けてください。お嬢さん・・・」
その声を聞いて、初めて自分が眠っていたことに気が付く。
薄っすらと目をあけると、
眼下に星屑の海が広がる。
「えっ? あっ?? 何???
ここ、どこ? キャッ」
不意に立ち上がった瞬間、空中に体が投げ出された。
手袋をした手によって、間一髪引き戻される。
「おっと。危ない、危ない。
折角ご案内いたしましたのに、
この場所はお気に召しませんでしたか?」
自分達を支える床がとても狭くて、
見渡す限り、壁も天井もない。
吹きすさぶ風が、今までに感じたこともないほどに重みを持っている。
もしかして、夢の続き?
それとも、あの世にでも来てしまったのかしら?
自分のおかれている状況が全くつかめない不安から、
ただただ、隣りに座っている真っ白な格好をしている人の顔をじっと見詰めた。
その人は眼鏡をかけている。
それも、片方だけに・・・
白いシルクハット、白いマント。全身、真っ白。
でも、ネクタイは、赤。
見たこともない格好の人。
私は、その人が気付くまでずっと、
その人の横顔を見詰めた。
すると、その人は
私が見詰めているのに気付いて、
じっと目を合わせてくる。
ふと、その人は満面の笑顔を見せてくれた。
視線を少し下に落として、その人が言った。
「寒くないですか?」
そういえば、さっきまで
凍えるように寒かった。
しかし、今は不思議と寒くない。
どうして?と、自分も視線を下に落とすと、
自分の格好が変わっていることに気付く。
「あれ? さっきまでスカートだったのに…」
「ええ。とてもお似合いだったので、
本当はそのままの格好でいていただきたかったのですが、
あの格好のままでは、体が衰弱してしまうので
僕のをお貸ししたのです。」
私は、ズボンのサンタスーツを着ていた。
さっきまでのミニスカサンタのコスプレは、
生地も薄くて肌寒かったが、
今着せてもらっている服は、肌触りがフワフワしていて
とても温かい。
「このスーツは、寒さにとっても強いのですよ。
これなら、本場の雪山も
トナカイのソリに乗って越えることができるでしょう。」
私は、この人が誰なのか、知らない。
でも、もう少し
ここでこの人と一緒にいたい。
そう、思った…
「あの、あなたは
もしかして、サンタさんですか?
とってもお若いサンタさんなのですね。」
今の質問に、この人はすぐには答えなかった。
少し下を向いて笑い、そしてこちらを向いて答えてくれる。
「私自身も、そうであればよかったと思いますが・・・、
残念なことに、私はサンタクロースではないのです。
むしろ、その逆。
与える者ではなく、奪う者。
言うなれば、『コソ泥』です。」
とっても温かくて優しい笑顔が
少し曇ったように見えた。
しかし、少し変である。
『泥棒』というのは、闇夜に紛れ
目立たないように動き回る者であり、
服装も、夜空を思わせる深い色をまとうはず。
しかし、この人は、闇夜には全く染まらないで
凛と輝いているように見えた。
そう、まるで一輪の白い薔薇のよう・・・。
「あはは☆ 本当に?
あなたは決してそんな風に見えないよ。
人から物を盗むなんて。
…私が見るに、まるで聖なる夜に、
地上に舞い降りた『天使』。
そうでなければ、
みんなの心に夢をプレゼントしてくれる『魔法使い』。
現に、
冬の寒さに心も身体も凍えそうになっていた私を
こんな素敵な場所に救い出してくれたじゃない?
私、こんなにキラキラ輝く海に来たのは初めて♪
いっそ、この海に飛び込んでしまいたいぐらい。」
半ば無理やり連れてこられたこの状況を肯定的に受け止め、
無邪気にテンションをあげる私に
この人は呆気にとられたようだった。
しかし、その時間もほんの一瞬。
何か核心を得たように笑顔を浮かべて
力強く切り返す。
「はははははっ!
有無を言わせずあなたを連れ去り、
さらに天空のかごに閉じ込めている私を『天使』とは。
よろしい・・・、
今宵、あなたの『羽』となり、『魔法の杖』となりましょう。」
口元に不敵な笑みを浮かべて、熱い眼差しを投げ掛けてくる「彼」。
右手を差し出し、私の『答え』を待っている。
今の私に、選択肢は1つだった。
右手には、右手で応える・・・
『・・・ッポン☆』
私が彼の指先に触れようとした、丁度そのとき、
シャンパンのコルク栓が抜けるような音がして
次の瞬間には
彼の手に、赤い薔薇が1輪、握られていた。
「うわぁ・・・♪」
ロマンティックな演出に、酔ってしまいそう。
この魔法が解けてしまわないように、
そっと、両手で包み込もうとしたその瞬間
私の視界の全てが、「彼」の胸に吸い込まれた・・・
「・・・えっ?」
「彼」の両腕の中に、私の身体がすっぽりと隠れてしまった。
肩から背中、そして腰に強い力を感じる。
頭の中が、真っ白に・・・なった。
苦しくて、・・・息ができない。
頬が熱くて、焦げてしまいそう。
胸の高鳴りが、耳元で聞こえるみたい・・・
こんなとき、どうすれば・・・いい?
「彼」の唇が私の耳元で揺れる。
「私を、決して放さぬように・・・」
「彼」の囁きは、神の御手を呼び寄せる。
『カシュ―――ン・・・、バダッ!』
「彼」の羽が、冬の冷たい風をつかんだ。
神の御手にいざなわれるように、
二人の身体は夜空へ投げ出される。
恐る恐る「彼」の胸から顔を離すと、
さっきまで遠くで瞬いていた
眼下の煌きが手に届くよう・・・
「信じられない・・・、空を、空を飛んでる・・・」
「彼」をつかんでいる両腕の力が、フッと抜けてしまった。
「わっ・・・」
空中に投げ出されそうになる私の手をつかんで、
「彼」はビルの屋上を目指す。
「本当に、あなたは懲りない人だ。
あなたといると、命がいくつあっても足りない。」
ビルの屋上に私を立たせると、
「彼」は幼子の顔を覗き込むように
私の瞳を見つめた。
「ごっ、・・・ごめんなさい。」
私はとっさに目線を伏せる。
なぜかしら?
「彼」の瞳は私の胸の奥の奥まで見透かしてしまいそうで・・・
何だか顔が熱い、・・・気がする。
「イルミネーション煌く海は、いかがでしたか?
ここからだと、海の底に手が届きそうではありませんか。
目の前に立っているのが、
我々が先ほどまで宿っていた、もみの木ですよ。」
「彼」の指差す先には、東都タワーが輝いている。
いつもはオレンジ色を帯びているタワーが
クリスマスのこの日だけ、greenに色を染める。
これほどまぶしさを覚える夜はない。
もし、この世に神様がいるなら、
今日のこのときを与えてくださったことに
感謝しなくては・・・
不意に胸の内の感情が抑えきれなくなって
目に涙がにじんだ。
「彼」に気付かれたくなくて、
夜空を見上げる。
そのとき、気付いたのである。
ここにあるべきなのに、無い物。
そして、なぜここに「彼」がいるのかを・・・
★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・
日付は、12月25日。
朝日が昇るまで、あと約5時間。
「彼」は、待っている。
全ての人を魅了する
「魔法」をかける、その時を・・・
もし、そうであるのなら
私は彼が「奇跡」を起こすのを見届けたい、
そう思った・・・
「ねえ、どうして?」
わざと、「彼」を困惑させるような問い掛けをしてみる。
ちょっとした、逆襲。
こちらが驚かされっぱなしでも癪である。
「・・・それは、あなたが私の可愛い『サンタさん』だからです。」
私は「彼」が
動揺の色の一片でもいいから見せてくれるのではないかと
期待していた。
しかし、あっさり切り返され
今度はこちらの心に波紋が浮き立つ。
・・・、ああそうか。
この質問をストレートにぶつける私の方が
野暮なのね。
でも、今の私に
着飾って見せるなんて、ゆとりはない。
私は、自分の想像していることが
どこまで合っているのか、答えあわせがしたいの。
「空気」の色を読むなんて、私にはできない。
厚いベールに包まれている、あなたの胸の内を
言葉に紡いで見せてほしい――
「彼」は大人である。
私の表情を見て、私の心の言葉を
全て読み取ってしまう。
「今日は、どうしても外せない約束が2つもあり、
とても焦っていました。
ひとつは、『仕事』。もうひとつは『大切な人との宴』です。
私は『大切な人』と、こんな約束を交わしていました。
“宴には、とびっきり美味しいケーキを持っていく”と。
ところが、今日は
仕事場でとんだサプライズ・プレゼントをいただき、
都合していたケーキを持っていくことができなくなってしまった。
・・・でも、今では
その『サプライズ』に感謝しています。
お陰で、こんな美味しいケーキと
可愛い「サンタさん」に出会うことができたのですから。」
「彼」はそう言い終えると、
私がついさっきまで溜息をついて見詰めていた
『困り物』の箱を取り出した。
「あれ?? 全部売れたはずなのに、なぜここに??」
思わず眉をしかめる。
「そんなお顔をされないでください。
僕にとっては、Happy Box なのですから。」
「??? ・・・!
もしかして、あなたは
あのときの・・・☆」
「彼」のとびっきりの笑顔と爽やかなウインクに
胸が熱くなる。
「あっ、あのときは
本当にありがとうございましたっ!!!」
改めてお礼を言うことができ、幸せな気持ちでいっぱいになった。
「あなたはもう、召し上がられましたか?
もし宜しかったら、ご一緒に♪」
封を開けると、真っ白なクリームの上に
真っ赤なイチゴが笑っている。
ツリーに、トナカイ、そしてサンタがはしゃいでいるように見えた。
「わっ♪ 美味しそう☆
こんなに可愛いケーキだったなんて!
見ているだけで、ウキウキしちゃう。
ついさっきまで、悪者扱いをしてしまい
本当に申し訳ないっ!!
実は、食べたい・食べたいって思っていたのです♪」
円いケーキに「彼」がナイフを入れてくれる。
放射状に8つに切れ、あとは食べるだけ♪
そこに、意外な難関が立ちはだかる。
「しまった! フォークを忘れてしまった・・・」
もう見るのを諦めていた、「彼」のはにかむ笑顔。
「あははははっ♪ どうしましょう?
クリームだけなら、ほら、こうやって・・・」
指でクリームをすくって、ぺロッ☆
「そうか! その手がありましたか。
それがセーフなら、この手もありでしょ?」
「彼」は白い手袋を外して、
ケーキの丸い背中をそっとつかんだ。
そのまま口元へ。
口の周りは、まるでサンタさんのお髭のよう。
「きゃはっ♪ それはいいアイディア!
私も私も・・・。 ほら、本物のサンタさんみたいでしょ♪」
澄み切った空気に私達の笑い声が響いていく。
ビルの壁に反射して、帰ってくるものもあれば、
どこまでも駆け抜けていくものも・・・。
しかし、それらはいずれも
夜空の深みに吸い込まれていった。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。
今日はなんて愉快な日じゃ。
今宵、驚くべきことに
サンタであるワシにまでも、プレゼントがやってきた!
こんな嬉しいサプライズはない。
今宵訪れた全ての『出会い』に
心より感謝申し上げる。
・・・さて、サンタクロースにもプレゼントを届けてしまう
変わり者の“ニューフェイス”にも、
何かプレゼントを渡すとしよう!!
さて、何が宜しいかのう?
ルール違反じゃが、直接本人に聞いてみようかのう?」
悪ノリが過ぎたかと
自分の言動を想起し、思わず赤面。
何となく、そこに居たたまれなくて
どこに行くわけでもなく、歩き始める。
口の周りについたクリームを人差し指で掬い取って
唇へ。
甘くて幸せな香りに、
“このまま朝が来なければ、いいのに・・・”と
叶えられるはずもない愚かな願い事を
心の中でつぶやく。
「では、サンタの中のサンタ様。
私めにも、ひとつプレゼントしていただきたいものがございます。」
コツ・コツ・コツ・・・
フラフラと、フワフワと立ち歩く私のもとへ
迷いなく、真っ直ぐに歩み寄る「彼」。
左胸に手を当て、立てひざをついて
私の前に座ると、
シルクハットを取り、
生クリームよりも甘く、
マシュマロよりも柔らかいのではと思われるような
優しい声を奏でてくれた。
一体、どんなことを言ってくれるのか、
ドキドキで心臓が飛び出しそうになる。
「雪を、
・・・雪を、降らせていただきたいのです。」
「彼」は、頭を傾げ、まぶたを閉じたまま
私のリアクションを待っている。
「彼」は、少年でもある。
私がもし「彼」の立場であれば、
この成行きで、こんな
祈りにも似た『願い』を
相手に向けない。
「彼」が手のひらを返すように容易く
次々と奇跡を起こして見せるのは
何事にも臆しない
芯の通った信念を
いつも揺ぎ無く心に帯びているからであろう。
私が、今
問われているのは
奇跡を実現させる神がかり的な魔力ではない。
非力であることを知りつつも、
大勝負に打って出る気概があるかどうか。
それを、試されているのである。
――私は「彼」の
本当のサンタクロースになれるだろうか?――
・・・、いや
「なれるかどうか」ではなく、「なるかどうか」である。
心の強さを問われる場面を
ことごとく避けて通ってきた私。
立っているだけで息が上がるほど
胸は鼓動を早める。
できるなら、いっそここから消えてなくなってしまいたい。
しかし、ここは高層ビルの屋上。
逃げ込む場所なんて、どこにもない。
・・・それに、今は逃げたくなんかない。
私の心は、決まった・・・!
「ふぉ、ふぉ、ふぉ! 心得たっ。
今宵、この街に雪を降らせてみせましょう☆」
・・・
私の『予想』は、半分合っていて、半分間違っていた。
「彼」は、この街に
雪を降らせようと願っている。
それは、思ったとおりであった。
しかし、その願いを私が叶えることになるとは。
私は彼の「魔法」を、数多く目の当たりにした。
てっきり、その「魔法」で
雪まで降らせてしまうのではと思ったのだが・・・。
しかし、
安請け合いした「プレゼント」を
果たして私なんかが用意できるのか・・・?
私は、彼のような「力」は
何一つ、持ち合わせていない・・・。
あとは、「運」次第だ。
★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・★☆★・・・
~ きよし この夜 星は光り
救いの御子は 馬槽の中に
眠り給う いと安く
この歌の歌詞は、日本語訳が一番ぴったり来る。
勝手にそう思っている。
天にまします“声の主”へ
かつての約束を果たしてくれるよう、願い出る。
~ きよし この夜 御告げ受けし
牧人達は 御子の御前に
ぬかずきぬ かしこみて
時は遡ること、10年前・・・
私は、姿の見えぬ“声の主”と、ある約束をした。
「神様、今日はクリスマス・イヴですね。
明日の朝、目を醒ました時に
どうしても手にしたいプレゼントがあるのです。
この願い、ぜひ聞き届けてください・・・」
♪~ 雪や こんこん あられや こんこん
ふっても ふっても ずんずん つもる。
犬は よろこび にわ かけまわり
ねこは こたつで 丸くなるっ!
2階のベランダから空を仰いで
思いっきり大きい声で歌った。
すると、どこからともなく “声”が返ってくる。
「ブブゥ~★ 惜しい!! ちょっと、違うんだなぁ。
コレじゃあ、君の願い事を聞いてあげられないよ?」
頭の上から声がする。
ベランダから屋根の上をのぞいてみるものの、
誰の姿も見えない・・・
このとき、警戒心など持ち合わせていない私は
父に話でもするように、気持ちをぶつけた。
「えぇ~? 違うのー??
でも、みんながこうやって歌ってたよ?
じゃあ、本当はどんな歌なの??」
“天の声”は教訓的である。
「だぁめ!! 簡単に『答え』なんか教えてあげないよっ★
知りたかったら、自分で調べること!
またやって来るイヴの夜に
ちゃんと歌うことができたら、
君に雪をプレゼントしよう。」
「ホント?? 絶対だよ! 約束だからねーーー!」
“声の主”との約束は、「イヴの夜」。
ちょっと遅刻しちゃったけれど、聞いてもらえるかな??
あの約束は、きっと
今夜のためにあったものだから・・・。
~ 雪やこんこ 霰(あられ)やこんこ
降っては降っては ずんずん積る
山も野原も 綿帽子かぶり
枯木残らず 花が咲く
~ 雪やこんこ 霰やこんこ
降っても降っても まだ降りやまぬ
犬は喜び 庭駈けまわり
猫は火燵(こたつ)で丸くなるっ♪
両手を天に差し伸べ
瞳を閉じて、“声”を待つ。
父のような、気さくな言葉掛けを・・・
・・・
でも、“声の主”は
私との約束をすっかり忘れてしまったようだ・・・
いや、約束は「イヴの夜」。
今は、日付変更線を越した25日である。
今宵の願い事は
果たされる筋合いのないもの・・・。
澄み切った聖夜に
なんて図々しい願いを・・・
愚かな自分に涙が止まらない。
すると、
いつぞやかの手袋の感触が
頬に触れた。
「・・・ごっ、ごめんなさい。
あなたに雪を、・・・プレゼントすることができなかった。
本当に、ごめんなさい。」
「彼」の手は
頬の涙を拭い去り、
今度は
手袋を脱いだ素の肌で
頬を包む。
「これほどまでに、身体を冷やしてしまっていたなんて・・・」
凍りかけた頬の冷たさが
「彼」の手のひらににじみゆくのを感じた。
「彼」の瞳が悲しみの色をたたえる。
「・・・そんなことは、よいのです。
私のわがままで
あなたをずっと寒空の下に留めてしまいました。
私の罪深き振る舞いを、どうか・・・」
「彼」の声が、ふっと途切れた。
何事か起こったのであろうか・・・?
・・・その原因を作っていたのは自分であったことを
気付くことができたのは、それから数分の後――――――
「あ・・・、温かい。」
膝をついて倒れ掛かっていた私を
白い羽に包み込んで
「彼」はずっと支えてくれていたのである。
さっきまでずっと寒かった首筋が温かい。
私が気を失っている間、
ずっと「彼」の頬が
私の頬に体温を与えてくれていた・・・
「彼」の吐息を首筋に感じる。
おかしい・・・
こんなに近い距離にいるのに、
ドキドキ感よりも、安心感に包まれている私。
これ以上、「彼」の近くにいてはいけない。
「彼」のぬくもりを忘れられなくなる、
離さずにはいられなくなる、
求めずには、いられなくなってしまう・・・。
「このまま、朝まで目を開けなくてもよいのですよ。
あなたが目覚めるそのときまで、
私がここにおりますから。」
「いいえ。 これ以上、あなたに甘えるわけにはいきません。
25日の日の出に向けて、カウントダウンが始まりました。
世の皆さまが夢から目覚めるその前に・・・、
私はここから立ち去ります。」
身体を支えてくれていた「彼」の腕から立ち出でて
コツ、コツ、コツ・・・。 3歩後ずさりする。
心配はかけられない。
右足を軸に360度回転して
とびっきりの笑顔に努めた。
「彼」には、これ限りで私を忘れてほしい・・・
でも、もし記憶の片隅にでも置いてもらえるなら、
願わくば、この笑顔だけを胸に・・・。
笑顔に笑顔で返してくれる・・・、
「彼」は私の気持ちにどれぐらい気付いただろうか?
「・・・賛美歌109番には、3つ目の歌がまだ残っています。
よければぜひ、その歌をお聞かせ願えませんでしょうか?」
気持ちにけじめをつけるチャンスを与えてもらった――。
泣きたい気持ちを堪えて
夜空に声を発する。
今宵の出会いに最高の感謝の気持ちを込めて・・・
~ きよし この夜 御子の笑みに
恵の御世の 朝(あした)の光
輝けリ ほがらかに
「う・・・、うぁ。」
突如、足下から天に向けて吹き上げる
つむじ風にも似た突風が襲い掛かる。
私のサンタ帽子だけでなく、
彼のシルクハットまで巻き上げられる・・・
その突風は、同時に「彼」の片眼鏡まで持ち去った――
飛ばされた物たちに視線をやると
空はもう、白み始めていた。
視線を、恐る恐る彼に向ける。
突如として起きた風の来襲に目を丸くしていたが
すぐにこちらに目を向けてくれる。
私の不安そうな顔を見て、
表情で語ってくれる・・・
「(大丈夫。)」
今までで、一番優しい表情に見えた。
私は、「彼」を忘れない。
この笑顔をずっとずっと・・・
次の瞬間、鼻の頭に冷たさを感じた。
再び空を見上げる。
すると、・・・
やってきたのである。
街を幸せ色に染める、雪の精が・・・。
「わぁっ、やった・・・、やったーーー☆☆☆」
天に気持ちが届いたこと、
そして、「彼」とひとつのことで喜び合えることに
嬉しさで身が震えるようだった。
この広い地上に生を受けし人々は、
時間と空間の中に足跡を残しながら、各々が人生の旅を続ける。
その道が交わり、出会うことができたその奇跡が
かけがえのない『感動』を呼び起こしてくれるものなのだろうか・・・
『出会い』は、『別れ』の始まり。
けれど、一度紡がれた気持ちは
これからも、つながり続ける。そう、信じたい。
この地上に立つ限り、
仰ぐ空は、いつもつながっているのだから―――――。
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【途中ですが】
こんにちは!
なに!なんなの?!
気になるぅ~!
“白い人”が出てきたので、ああ!ミニスカサンタは“青子ちゃん”?と思いました。
長机の上に無防備に横になっちゃうのも“青子ちゃん”ぽいし。
でも、でもでも、現在ある文章の最後の方で、ビルの上に降り立った…。
ま、まさか快ら……ん?
続きをぷりーーず!!
東山くん、小学生とは思えない内容あんど描写で、おばちゃんはウキウキしております♪
だから、続きをぷりーーず!!
なに!なんなの?!
気になるぅ~!
“白い人”が出てきたので、ああ!ミニスカサンタは“青子ちゃん”?と思いました。
長机の上に無防備に横になっちゃうのも“青子ちゃん”ぽいし。
でも、でもでも、現在ある文章の最後の方で、ビルの上に降り立った…。
ま、まさか快ら……ん?
続きをぷりーーず!!
東山くん、小学生とは思えない内容あんど描写で、おばちゃんはウキウキしております♪
だから、続きをぷりーーず!!
Qきちさん、こんばんは(^0^)/
コメント、本当にありがとうございます♪
「白い人」、引っ張り出してきてしまいました…。
僕のドタバタに、
一番気を長くして付き合ってくれそうな
心の広いお方(笑)♪
ミニスカサンタが誰なのか?!
あっ! 青子?! それとも蘭…!?
そうかっ!!
全然、考えていませんでした(^0^;)
イメージが一気に膨らむご助言に
心から感謝申し上げますm(_ _)m
年末のこのお忙しい時に
こんな駄文にお付き合いくださいまして
本当にありがとうございます♪ミ
失礼ながら、ここで御挨拶!!
本年も、大変お世話になりました☆
もし宜しければ、来年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m
コメント、本当にありがとうございます♪
「白い人」、引っ張り出してきてしまいました…。
僕のドタバタに、
一番気を長くして付き合ってくれそうな
心の広いお方(笑)♪
ミニスカサンタが誰なのか?!
あっ! 青子?! それとも蘭…!?
そうかっ!!
全然、考えていませんでした(^0^;)
イメージが一気に膨らむご助言に
心から感謝申し上げますm(_ _)m
年末のこのお忙しい時に
こんな駄文にお付き合いくださいまして
本当にありがとうございます♪ミ
失礼ながら、ここで御挨拶!!
本年も、大変お世話になりました☆
もし宜しければ、来年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m
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